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高級ホテルにおける成果に連動した固定残業代を無効としたトレーダー愛(現・日本セレモニー)事件京都地裁判決 (3/5)

2 主張、立証上の工夫

(1)争点

本件の主要な争点は、成果給が時間外手当の支払いとなるのか否かであった。被告の賃金体系が是とされる場合、未払い残業代は存在しない事案であり、就業規則で明確に定められ、それに基づいて正確に支給されている固定残業代を無効に追い込む点に本件の難しさがあった。

(2)労働時間の立証について

被告は労働者の労働時間をオンライン上で一括管理していた。被告のように多数の店舗を展開する事業者にはしばしばみられる形態である。システム上で出退勤の時刻自体は正確に記録されていたため、原告が退職前に自分の分をプリントアウトしたものを証拠とした。客観的資料があるだけに、労働時間については、宿日直勤務のときの休憩時間の有無を除き、争いがなかった。

(3)基本に立ち返った法的な主張

争点がほぼ一つであったため、労働基準法施行規則に制限列挙された種類以外の除外賃金は原則として認められないことを、原則にさかのぼったそもそも論から展開した。そのうえで、高知県観光事件をはじめとする有名判例について証拠として提出して簡単に評釈した上で、固定残業代の支払いが是とされた典型事例である関西ソニー販売事件については、①「セールス手当」という単一の手当が、②時間外勤務手当の代わりに支払われる(時間外勤務手当との同質性)ことが就業規則に明記され、③手当の算定根拠が対象となる職種の平均的な時間外労働時間に相当する時間外勤務手当を支給する趣旨で、④基本給に17%という一定割合を掛け合わせた結果として得られる金額としている等の特殊なケースであることを強調した。

被告がユニ・フレックス事件の東京地裁判決を持ち出して、成果に連動した固定残業代を有効とした事例がある、と主張したときには少々びっくりしたが、労働者側で訴訟を担当された中野麻美弁護士に電話でお尋ねしたところ、その後に高裁判決(東京高判平成11年8月17日)で逆転勝利したことを知った。当然、それも引用した。なお、ユニ・フレックス事件については、地裁判決だけ引用して使用者側有利の評釈をする書物があるので注意が必要である。例えば『注釈労働基準法 下巻』(東京大学労働法研究会 有斐閣 2003年9月30日 642頁)である。筆者の手元にあるマニュアル本の類だと『賃金・賞与・退職金の実務Q&A』(三協法規出版 2011年6月30日 256頁)にも同趣旨と思われる記載がある。

(4)被告の就業規則の矛盾を徹底的に指摘

被告の就業規則については徹底的に分析した。その上で、時間外勤務手当が9種類もあること自体が脱法目的であること、「成果に連動した固定残業代」は二つの異なった趣旨の賃金を無理矢理一つにしたものであり必然的に基本給部分が混在せざるを得ないこと、時間外勤務手当が賃金の50%を超える不合理性、成果賃金といいながら100時間以上の過労死ラインでの時間外勤務を恒常化させる制度でありそのことは原告の残業時間が実証していること、成果給を支払いながら超長時間の残業がされると結局調整手当が支給されて成果給が残業代に完全に吸収されてしまうこと、被告の主張によると原告の基礎時給が812円となり役割も責任も少ない学生アルバイトより賃金単価が低くなることなどを指摘した。

(5)三六協定について

また、本件訴訟係属中にザ・ウインザーホテルズ・インターナショナル事件の札幌地裁判決(札幌地判平成23年5月20日)が『労働判例』に掲載され、この判例において固定残業代の支払い合意を45時間に限定した根拠が三六協定(実際は三六協定に関して時間外勤務時間を45時間以下にすべしとした労働省告示)だったため、被告に三六協定を提出させた。すると、これ自体、労働者代表の選任が行われていない無効なものであったため(東京高判平成9年11月17日労判729号44頁参照)、そのことを指摘して公序良俗に違反する固定残業代の支払いは認められないとした上で、その三六協定が定める「1ヶ月45時間」「1年360時間」の基準すら現場で全く守られていないことを指摘した。