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高級ホテルにおける成果に連動した固定残業代を無効としたトレーダー愛(現・日本セレモニー)事件京都地裁判決 (4/5)

3 判決の内容

(1)規範(的認識)

判決は、原告の給与体系について、宿日直手当を含めると時間外手当が基本給を上回る仕組みになっており、1日少なくとも5時間を超える時間外労働をすることを前提とした賃金体系になっていると指摘した。そして、「被告が主張するように、成果主義が採用されているので、より短い労働時間で成果を上げた場合には、1日5時間を超える時間外労働をする必要はないが、業務の性質が大幅に労働者の裁量にゆだねられているような裁量労働者である場合はともかく、原告の場合、ホテルのフロント業務であり、宿泊客等に対する対応が主たる業務であるから、おおむね成果(業績)は労働時間に比例すると考えられる。そして、所定労働時間と時間外労働で労働内容が異なるものではない。そうすると、基本給(所定労働時間内の賃金)と成果給(時間外手当)とで労働単価につき著しい差を設けている場合には、その賃金体系は、合理性を欠くというほかなく、基本給と成果給(時間外手当)の割り振りが不相当ということになる。」とした。

(2)当てはめ

ア 原告の賃金体系の検討

判決は、2010年8月を例に、原告の賃金について以下のように具体的な検討をした。

基本給は14万円に対し、時間外手当は、成果給13万円に宿日直手当3万9000円を合わせた16万9000円である。この月の原告の労働時間は、前期認定の通り、総労働時間約230時間、所定内労働時間158時間、時間外労働時間約72時間であり、時給を計算すると、所定内労働時間については約890円に対し、時間外労働は約2350円となる。宿日直手当については宿直したことの手当であるので、これを除外して成果給のみでみても、時間外労働の時給は約1800円となり、時間外手当について、基本給の時給の倍の賃金を払っていることになる。時間外手当については、基本賃金の25%以上を支払わなければならず、100%以上の金額を支払っても悪くはないが、原告の所定内労働と時間外労働で労働内容が異なるものではないことからすると、被告における賃金体系は、基本給と成果給(時間外手当)とのバランスをあまりに欠いたものであり、成果給(時間外手当)の中に基本給に相当する部分を含んでいると解さざるを得ない。 これは、被告の就業規則が成果給の引き当てとなる時間外労働時間数について全く考慮していない弱点を突いたものでもある。

イ 賃金の性質からの混在の指摘

次に、判決は

また、成果給は、前年度の成果に応じて人事考課によって決められる。他方、時間外手当は労働者を法定労働時間を超えて労働させた場合に使用者が支払う手当であって、労働時間に比例して支払わなければならないものであり、前年度の成果に応じて決まるような性質のものではない。そうすると、被告において、性質の異なるものを成果給の中に混在させているということができる。

とした。これは原告において重点的に主張した点である。

ウ 最低賃金との関係の検討

さらに、判決は

被告における基本給は、ほぼ最低賃金に合わせて設定されている。たとえば、岩手、広島、大阪の各勤務者の基本給の月額は、岩手12万円(月の所定労働時間は172.5時間であるので、時給換算で約696円)、広島13万円(同754円)、大阪14万円(同約812円)と決められているが、平成22年度の最低賃金時間額をみると、岩手は644円、広島は704円、大阪は779円であり、被告の基本給は、いずれも最低賃金を上回り、万単位で最も低い金額としている。(近畿地区勤務者は大阪に合わせ、広島周辺の勤務者は広島に合わせている。)。そして、それ以外の賃金はすべて時間外手当とすることによって、よほど長時間の労働をしない限り時間外手当が発生しない仕組みになっている(たとえば、近畿地区勤務者であれば、基本給の時給は812円であり、時間外手当の割増率25%で時給1015円、深夜労働と重なると割増率50%で時給1218円であるから、成果給13万円を超える時間外労働をした場合というのは、月106時間(割増率50%)、ないし128時間(割増率25%)の時間外労働をしたときである。)。

と指摘した。そして、被告における成果給額の決定について

被告が求める成果(その内容は本件全証拠によっても定かではないが)を達成するためにどの程度の時間外労働を要するかなどの検討をした様子は全くなく、単純に最低賃金時間額を上回って万単位で最も低い金額を基本給とし、27万円を保障するためにその余を定額の時間外手当を割り振ったものであるといえる。

とした。その上で

所定労働時間内の業務と時間外の業務とで業務内容が異ならないにもかかわらず、基本給と時間外手当とで時間単価に著しい差を設けることは本来あり得ず、被告の給与体系は、時間外手当を支払わないための便法ともいえるものであって、成果給(時間外手当)の中に基本給に相当する部分が含まれている

と被告を断罪した。

(3)結論

上記のような検討をした上で、判決は

以上の通り、被告の賃金体系は、成果給(時間外手当)の中に基本給の部分も含まれていると解するのが相当である。そうすると、成果給が全て時間外手当であるということはできず、成果給の中に基本給と時間外手当が混在しているということができるのであって、成果給は割増賃金計算の算定基礎に含まれるとともに、時間外手当を支払った旨の被告の主張は失当である。

とし、被告による固定残業代支払いの主張を全否定した。なお、宿日直手当についても、成果給と「同様のことがいえ」として、簡単に残業代としての支払いを否定した。その結果、成果給、宿日直手当も基準内賃金として基礎時給を算出した上、一から残業代を払い直しさせる等して、280万円あまりと遅延損害金の支払いを命じた。

なお、付加金の支払いについては「賃金体系が不合理であることが明白であるとまではいえず、不払いも一応の理由がある」との理由で簡単に否定した。