京都・大阪の残業代請求なら実績豊富な当事務所へお任せください。

京都第一の強みと実績

高級ホテルにおける成果に連動した固定残業代を無効としたトレーダー愛(現・日本セレモニー)事件京都地裁判決 (2/5)

1 事案

(1)原告が被告に就職するまでの経緯

本件の舞台になった「THE SCREEN」というホテルは、『ミシュランガイド』の関西版にも毎年掲載され、京都を訪れる外国人観光客を主要な顧客層とする高級ホテルである。

このホテルの運営主体はもともと他の会社であったが、2010年5月1日、山口県に本社を置き、中国地方のみならず全国的に冠婚葬祭業などを手広く経営する株式会社トレーダー愛(現・日本セレモニー。以下「被告」)に事業譲渡された。

一方、原告は生粋のホテルマンである。Les Rochesというスイスにあるホテルマネジメントを学ぶ名門学校を卒業した後、ハイアットリージェンシー、シャングリラ、リッツカールトン等有名ホテルチェーンの国内外の店舗での勤務を歴任した後、洞爺湖サミットの際に有名になったザ・ウインザーホテル洞爺での勤務を経た。そして、小さいホテルで自分でいろいろと企画立案したいという思いから、2009年5月に事業譲渡前のTHE SCREENに就職した。2010年5月1日の被告への事業譲渡後も勤務し続けた。

(2)被告の給与体系

被告は就業規則の一部である賃金規定の第15条で成果主義を標榜し、「会社は、労働時間の短縮を目的として成果主義を導入している。年間の勤務実績と業績を評価し成果給(年一回改定)と成績手当(3箇月毎の業績評価に基づく)を支給する。但し、成果給と成績手当及び勤務手当・繁忙手当の合計額が、時間外労働に対する手当(時間外手当、休日出勤手当、深夜勤務手当)の合計額を下回る場合は、差額を調整手当として支給する。<改行>成果主義は、労働時間を短縮し、業務を効率よく遂行し、目標の業績をあげることを推進するものであり、効率の悪い長時間労働を防止することを目的とするものである。」などとしていた。そして、第3条において、「基準内賃金」として、基本給、役割給を記載する一方、「基準外賃金」として、本件で問題となった「成果給」を始め、8種類もの基準外賃金を定め、それぞれについて「時間外手当に相当」と明記していた。就業規則に記載のない宿日直手当も含めると、実に9種類もの時間外勤務手当が定めていた。

被告による雇い入れ時の原告の給与は基本給14万円、成果給13万円であり、宿日直勤務1回につき3000円の宿日直手当が支給され、別途通勤手当が支給されることになっていた。これは事業譲渡前の原告の賃金総額について基本給と成果給に割り振った金額であった。宿日直手当は就業規則に位置づけの記載がなく、支給を決定した被告の決裁文書には、支給根拠として「深夜割増6時間分1200円+夜間勤務として1800円の支給とする。」との記載があるのみだった。また、2011年3月分の給与からは、就業規則に基づき、成果給が10%減額されて月額11万7000円となり、業務成績がよければ成績手当が支給される旨通知した。

(3)原告の勤務実態

被告における勤務は超長時間労働であり、月に10日以上もある宿日直業務については、高い宿泊料を払い、当然、それに見合った高いサービスを求めてくる宿泊客を相手にフロント業務を一人で行うという高級ホテルとは思えない激烈なものであった。不十分な裁判所の認定によっても、法定労働時間制との関係での退職前6ヶ月の時間外勤務時間は82時間25分(2010年10月)、112時間39分(11月)、89時間19分(12月)、100時間47分(2011年1月)、73時間45分(2月)、78時間19分(3月)と、厚生労働省の過労死認定基準を大幅に上回る水準のものであった。そうであるにもかかわらず、成果給、宿日直手当以外に時間外勤務手当が支払われることは一度もなかった。原告は心身に失調を来たし、心療内科を受診するようになり、2011年4月末で被告を退職した。なお、4月は有給消化等のため、実際には出勤していない。