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高級ホテルにおける成果に連動した固定残業代を無効としたトレーダー愛(現・日本セレモニー)事件京都地裁判決 (5/5)

4 評価

(1)判決の確定

この判決について、被告は控訴せず、確定した。被告にとっては判決内容があまりに深刻で、上級審で確定した場合の波及リスクを考慮したのかもしれない。

(2)評価

残業代請求事件をやっていると、労働者募集の時点では賃金を総額で示してそれなりの賃金額を示しながら、実際には、残業代の時間単価計算の基礎となる基準内賃金について最低賃金を参考にして非常に低廉な金額にし、その他の様々な費目の賃金について、就業規則で「残業代とする」旨明記し、あるいはそれすらせずに「固定残業代」として支払う事例が散見される。そのような就業規則を導入することを「売り」にしている社会保険労務士もいるようである。このような賃金体系は①基礎時給が低廉、②残業代の引き当てとなる手当が多額となる、の2点から、実際には別途の残業代支払いがほとんど発生しない仕組みであり、過労死ライン以上の長時間残業の温床となっている。使用者がこのような制度に寄りかかって、時間外労働時間のカウントをしていない例もある。

本件の京都地裁判決は、成果給に連動した固定残業代について基本給部分の混在を指摘して無効とするものであるが、判決が示している判断の過程は、最高裁判例等から容易に導けるものにとどまらず、①実際の労働時間をベースに基準内労働と時間外労働の賃金単価比較、②被告主張の基礎時給と最低賃金との比較などの手法を用いることで賃金体系の矛盾をあぶり出した。その上で、多額の固定残業代を設定することで労働者の残業代請求を計算上無効化しようとする就業規則を正面から批判して、それに基づく固定残業代を全て無効としたものである。この判決が示した評価手法は同種の他の事件にも応用可能なものであり、筆者としても、最終準備書面で指摘した点を超えて裁判所が示した認識に「なるほど」と思わされた。宿直時は一人で勤務しているのに休憩時間を認定したり、付加金を認めないなど、不十分な部分もあるが、それを超えて、この判決が示した認識は参考にすべきことが多く、筆者としては裁判官の判断を高く評価している。

また、本件では原告が実際に精神的にダメージを受けており、訴訟でも被告の賃金体系と過労死との関係を一つの主張の軸にしたのだが、過労死、過労自死の予防措置としての残業代請求がますます重要になっていくのではないか、と思う。

(3)残業代計算ソフトの使用

また、筆者が作成した残業代計算ソフト(エクセルシート)「給与第一」を裁判所が使用して、裁判所の認定労働時間に基づく「給与第一」の計算結果をそのまま判決文に添付した。このソフトは訴訟資料としてそのまま使用できるよう、計算結果が月ごとにA4の紙1枚に表示されるようにしてあるが、それがそのまま判決文に引用されたことは少なからず嬉しかった。

邪推の域に入るが、手計算の場合は認定する労働時間が増減することにより残業代の計算結果が全く異なってくるところ、計算ソフトを使えば、計算はコンピューターが行うため、この点について当事者も裁判所も細かい計算に神経を使う必要がなくなる。本件訴訟で裁判所が踏み込んだ認識を示した背景に、このような作業の電子化による負担の軽減があったのではないかと思う。筆者自身、残業代の計算作業から解放されたことで、事実面での追求や理論的な批判に時間を割くことが出来た。残業代の分野はまだまだ未解明の理論的な問題が多いとされるが、このように残業代の計算ソフトが導入されることで、訴訟が容易になり、労働実態や理論面の主張により多くの時間をかけることが出来るようになるのではないだろうか。