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洛陽交運(ヤサカタクシーのグループ企業)のタクシー乗務員の残業代請求事件で勝訴

1 事案の概略

本件は洛陽交運株式会社(ヤサカタクシーのグループ企業。以下「会社」)でタクシー乗務員として稼働している労働者が、未払い残業代の支払いを求めて提訴した事案です。

会社の賃金制度は大きく言って、最低賃金水準の月給制の本給に加えて、基準外手当Ⅰや基準外手当Ⅱ等の歩合給で構成されています。そして、会社が労働組合(原告も加入)と締結した労働協約では、基準外手当Ⅰや基準外手当Ⅱ等の歩合給について、すべて、「時間外勤務手当および深夜勤務手当」と記載されていました。

本件は、上記基準外手当Ⅰや基準外手当Ⅱ等は歩合給(定義:出来高に賃率をかける賃金)であり、残業代(労基法37条の割増賃金)を支払ったことにはならないから、本給、基準外手当Ⅰや基準外手当Ⅱ等に対して割増賃金を支払うよう請求して提訴したものです。2015年8月12日に提訴して以降、2017年6月29日に京都地裁判決が出て(一部勝訴)、双方控訴していたところ、2019年4月11日大阪高裁判決(一審原告一部勝訴。勝訴部分拡大)が出ました。

2 高裁判決の判示事項

控訴審判決は概略以下のことを述べ、基準外手当Ⅰや基準外手当Ⅱ等について、割増賃金とはいえない旨判示しました。

 

  • 「本給」が最低賃金額に抑えられ、基準外手当Ⅰや基準外手当Ⅱは、いずれも、時間外労働等の時間数とは無関係に、月刊の総運送収入を基に、定められた歩合を乗ずるなどして算定されていること
  • 一審被告において、実際に法定計算による割増賃金額を算定した上で、基準外手当Ⅰ及び基準外手当Ⅱの合計額との比較が行われることはなく、単に各手当の計算がされて給与明細書に記載され、その給与が支給されていたこと
  • 一審被告の求人情報において、月給が、固定給に歩合給を加えたものであるように示され、当該歩合給が時間外労働等に対する対価である旨は示されていないこと(1審被告は本件期間においても同様の求人広告を出していたものと推認される)
  • 一審被告の乗務員が、法定の労働時間内にどれだけ多額の運送収入を上げても最低賃金額程度の給与しか得られないものと理解するとは考え難いこと

これらからすると、これらの手当は、割増賃金の性質を含む部分があるとしても、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない。

 

3 高裁判決の影響

多くのタクシー労働者は、説明の仕方は色々あるにせよ、結局のところ、賃金の多くが歩合給で説明できてしまうという意味では、本件の原告と類似の賃金体系で働いています。これまで、訴訟では労働者側が勝訴する事例が多かったのですが、最判平成29年2月28日(国際自動車事件)が出され、同事件の差し戻し高裁判決以降、労働者側が敗訴する事案が続出しています(同事件は現在も再度の上告審が係属)。

本件の高裁判決は、近時の東京地裁等の判決のように賃金の見掛けのラベルに惑わされることなく、基準外手当Ⅰや基準外手当Ⅱ等が割増賃金に当たるとはいえない理由を詳細に述べており、それらの判断の根拠は、社内的な事情や原告個人の事情ではなく、社外に表示していた広告や、賃金の客観的性質によっています。

今回の判決の意義は、歩合給の計算方法による賃金を残業代であるかのように扱う一連の事案について、①刊行されている限りでは、国際自動車事件最高裁判決後に労働者が勝訴した恐らく初めての高裁判決であり、②同種事案について大阪高裁が初めて判断したと思われる事案です。③客観的事情により判断し、労働者募集広告の記載など社外に向けて表示している事項が主要な判断要素になっている意義も大きいといえます。判決の射程が広いこと、タクシー業が盛んな京都(そのほとんどの労働者が類似の賃金体系で働いている)の事件であることからしても、実務への影響は大きいといえます。

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